第2集燕山夜話-22 「八股余孽」

燕山夜話

 八股文は御免被りたいという人が多いが、その害毒を一掃しようという人は現れない。八股の亡霊はそこらをうろつきまわり、悪さのしほうだいだ。それが、他人の屍にのりうつり生き返ってくればどうする。こんな物騒な話には気を引き締めねばなるまい。
 八股文の特徴を、思想の根源や方法など難しいことは抜きにして、表現形式から見ると、その特徴は旧来の公式主義にある。この問題の全体像は、八股文の例文を挙げて、その構造について説明すると分かりやすい。
 試しに、本地区、本部門の歴代会議報告書や業務総括書のページから、結果報告と総括について云うと、真っ先に気が付くことは、中間の挙例内容は自作であるが、その他の文章には底本があり、それを書き写したもので、基本構造にほとんど変化がない。例えば、最初に業務の基本予想目標を述べ、続けて別段に業務の結果とその結果を得るに至った原因を述べる。それから、業務における可避的または不可避的欠点錯誤を指摘し、同時に欠点、錯誤に至った原因を述べる。その後で、再び、経験と教訓を述べて、思想向上の原則上誤った認識に対して矯正を加え、それから、優劣の典型を列挙し、それぞれ分けて称賛と批評を加える。最後に今後の努力目標と具体的任務を列挙、分析して有利な条件と不利な条件に分かち、万難を排して成功を勝ち取る決心であると締めくくる。
 さて、この業務報告、業務総括の内容そのものは、必要不可欠の事項を上手にまとめており、出来栄えは素晴らしい。ところが、本来は有用な資料を、報告作成者が、古臭い八股の決まり文句に仕上げたのだ。こんな八股は、見るだけで嫌気がさして、読み続ける気力が失せる。それを発表するなんて、とんでもない、紙と印刷経費の浪費だ。その上に、読者の時間と精力の無駄もある。若しもそれを台本にして報告会をやるとなると、報告者ばかりでなく多数の参加者の貴重な時間と精力を浪費することになる。これは罪悪に等しい。

八股文 指導風景 ?

 なかには八股文でないと言い張る人もいるだろう。そのご仁に、過去の八股の文章を引っ張りだして、比較してお目にかけましょう。とくとご覧あれ。
 明清二代にわたり盛行した八股文には、守るべき格式があった。一篇は八股、つまり八株から成り、各股に数個の段落があった。「題前」という部分には、「破題」、「承題」、「起講」、「領題」などの段落があり、中間「八比」の部分には、「起比」、「中比」、「後比」「束比」等の主要段落があり、末尾に「落下」と呼ばれる一段があり、これで全文を締め括った。「八比」の部分は、長短いずれにしても、各句は均斉のとれた対句が要求された。八比を書いて意を尽くせない時は、比数を増やすこともでき、多い者は二十にもなる。但し、普通は八比を超えない。旧式の八股文は、多くの約束ごとがあり、長文をかくことはまず不可能であった。この点から述べると、新式八股文は驚くほど長い。これが、旧式の八股文よりも嫌われる点だ。
 旧式の八股文は、決められた格式として、四十数種ある。新式八股文は格式に縛られていいないが、多くても十数種ではないか。そのようなわけで、文章が長い、読者にとってはどれもこれも、似たり寄ったりの千篇一律で、新しいものは何一つ見当たらない。これを怠け者の担当者が作ったとなると、文献の丸写しや、そこらを経典や原書の言葉で埋め尽くし、紙幅が延々と続く。なにを隠そう、この種丸写しの弊害こそ、八股文がもたらす必然的弊害の一つだ。
 清代康煕五十七年の“上諭”文が一通残っていて、それにこう書かれている。「月官の考試、八股時文を作らすに、大都の多くは旧文を抄録し、苟且に責を塞めるのみ。」[7品以下の官吏補欠試験で、八股文をつくらすと、多くの回答は旧作を書き写し、規定内におさまる形をつけたにすぎない。]もう一通の、乾隆四十三年「上諭」には、「近年奏せらるる風気に拠れば、長篇を為すことを喜とす。又多く墨巻、膚詞爛調なるを沿用し、遂爾に冗蔓浮華して、即ち能く文をなす者といえども、亦累される所に趨ふを免れず。‥‥‥嗣後郷会試、学臣士を取るに及び、毎篇倶七百字を以て率とし、違者は録せず。」[近年の風気は、長篇の作文が多くあり、また墨巻、軽薄な語彙を書き写し、文章を飾ることのみに腐心した結果、上辺のだけの浅薄な文章となり、よく書いているといっても、これらの悪影響を受けることを免れない。……今後は、郷会試、及び学臣や士を採用する際は、毎篇七百字以内と決め、違反者は採用しない。]
この種規定は、旧式の八股文に対して、当時ある種の規制の網を被せた。しかし、当時、封建的統治者の清朝は官僚統治の道具としてまだ八股文を使う必要があり、ばっさり八股文を廃棄することができなかった。現在我々は、過去の如何なる時代とは異なる時代に生きており、形式を問わず八股文を取り締まる優れた方法はいくらでもある。これからの新時代を担う若者が八股の悪弊に毒されることのないよう、八股文を徹底的に一掃し、これを甦らしてはならない。

訳・北 基行

【 掲載当時の時代考証と秘められたメッセージ 】

八股余孽 ひとそえ

 日清戦争、義和団事件と清国にとって不本意な経過を経て、科挙制度が廃止された。八股文のために多くの時間と精力を費やすことがなくなった。科挙に代わる官僚養成制度が急務とされ、その便法として、政府による留学生派遣による政法の習得が進められた。

梅謙次郎

 1904年、日本駐在公使の楊枢の上奏に「明治維新の初めの如き・・・速成司法学校を設け・・・欧米司法行政の学を学び、以て急需に応じる」とある。その目的に協力する為、「民法三博士」の一人とされた梅謙次郎の主導で1904年に法政速成科が設置された。梅謙次郎によると「一時的必要に迫られた、不完全なものであることを承知の上で」あったという。1904年から1906年にかけての速成科卒業者数は計1000人前後、卒業後の著名人(宋教仁、胡漢民、汪精衛、戴季陶ら)には清国政府の意図とは異なる革命派が多い。。実務に役に立つ法律を提唱した梅謙次郎の下で八股文から解放された若者が革命派になるという歴史の皮肉(必然)を感じる。しかし、その後に革命派内部に「党八股」が生まれたことまでは清末には知り得ない。ここでは現代中国に繋がる歴史に密接に関与した日本の教育機関の存在についての報告に留めたい。

文・井上邦久

八股余孽 原文

 人人都讨厌八股,但是谁也没有彻底清除得了八股的毒害,而八股的余孽却阴魂不散,还到处兴妖作怪,借尸还魂。这个情况很值得注意。
 八股的特点是什么呢?抛开思想根源和思想方法不谈,光从它的表现形式上来看,那末,它的最显明的特点就在于老一套的公式主义。这只要用八股文章的结构为例子,就可以说明全部问题了。
 随便翻阅本地区、本部门历次会议的工作报告和工作总结,你将不难发现,有些报告和总结,好象是一个底稿的几次重写,中间只是举例有所不同,而它们的基本结构则几乎没有多少差别。比如说,开头都有一段对工作的基本估计;接着分段讲述工作的成绩和取得这些成绩的原因,指出工作中的一些可以避免或不可避免的缺点和错误,同时也讲到造成这些缺点和错误的原因;然后再分别说明几条经验和教训,提高到思想原则上对某些不正确的认识加以纠正;并且举出好的和坏的各种典型,分别进行表扬和批评;最后提出今后的努力目标和具体任务,分析有利条件和不利条件,表示有足够的信心去克服困难,争取新的胜利。
 你看,这些不都是很好的必要的工作报告和工作总结吗?但是,可惜那些写稿的人,却把它写成老一套的八股了。这样的八股文,叫人一看就讨厌,简直读不下去。如果把它发表出来,徒然浪费纸张和印刷工人的劳动,也浪费读者的时间和精力;如果照它做报告,同样只能白白地浪费报告人和听众们的大量宝贵的时间和精力。你说这不等于是一种罪过吗?
 也许有人不承认这是八股,那末,我们无妨把过去的八股文章的那一套做法搬出来,对照一下,就会看得很清楚了。
 明清两代盛行的八股文章,都有固定不变的格式。每一篇八股文章,总得有几个部分。在“题前”的部分,有“破题”、“承题”、“起讲”、“领题”等段落;中间“八比”的部分,则有“起比”、“中比”、“后比”、“束比”等主要的几个大段落;末尾又有“落下”一段,以结束全文。“八比”的部分,无论长短如何,每一比的句子都必须整齐对偶。如果写了八比还嫌不够,也可以增加比数,甚至可以达到二十比之多。但是,一般都不超过八比。因为旧式的八股文有很多拘束,不可能写得太长。就这一点而论,新式的八股文长得要命,比旧式的八股文还要讨厌。
 在固定的格式之内,旧式的八股文又有四十几种作法,新式的八股文虽然可以有更多的变化,但是,恐怕也未必会有几十种作法吧。正因为这个缘故,所以读者总觉得有许多文章,似乎都大同小异,千篇一律,没有什么新东西。有一些懒惰的作者,干脆照抄文件,或者大量引用经典著作的原文,以充塞篇幅。这种抄袭的弊病,是八股文的必然恶果之一。
 清代康熙五十七年有一通“上谕”写道:“考试月官,令作八股时文,大都抄录旧文,苟且塞责。”乾隆四十三年又有一通“上谕”写道:“据奏近年风气,喜为长篇;又多沿用墨卷,肤词烂调,遂尔冗蔓浮华,即能文者,亦不免为趋向所累。····嗣后乡会试,及学臣取士,每篇俱以七百字为率,违者不录。”
 这种规定对于旧式的八股文,当时也曾经发生了某些约束的作用。但是,由于清朝的封建统治者当时还需要利用八股文作为他们统治的工具,他们当时就不可能从根本上废弃八股文。现在我们所处的时代完全不同于过去的任何时代,我们不仅应该有更多更有效的办法,足以取缔任何形式的八股文,而且一定能够彻底清除八股文,不许它们死灰复燃,不许任何八股的余孽为害于我们这个新时代的人民。

木下 国夫・藤井義則 校正

燕山夜話 第2集22話(通算51話)八股余孽