第2集燕山夜話-28 一把小钥匙

燕山夜話

小さな鍵

 最近読者からお手紙を頂いた。そのなかに、「研究業務を始めるとき、材料が多すぎて、どこから始めるべきか、手が付けられません」と不安を述べ、別の方は、「いろいろの問題に出くわし、参考資料を探そうとするが、どうしても見つからない、こんな時はどうすればよいでしょうか」、という相談であった。この方たちはそれぞれの分野で研究業務に就き、熱心に努力されているが、経験不足で、これからも研究任務に堪えられるだろうかという悩みを抱えているのだ。
 先ずかれらに勇気づけをして、彼らに、手段が無いと落胆したり恐れたりしないよう伝えたい。材料が氾濫し、手が付けられなくとも、その反対に全然見つからなくても、重要なのは扉を開ける小さな鍵である。系統化された科学研究資料の扉を開くと、一歩ずつではあるが問題は解決できる。
 では、その一つの小さな鍵はどこに有り、どのようにすれば手に入れるのか。私の答は、その小さな鍵は皆さんの手中にあると申し上げたい。だが、ちょっと手間と苦労をかけないと、その鍵は簡単に出てこないようになっている。
宋の有名歴史家、皆さんご存じの鄭樵が『校讎略』でこのように述べています。

鄭樵 『校讎略』

 「これを學び、專ならざる者は、書 不明を為すなり。書 不明なる者は、類例分たざるを為すなり。專門の書あり、則ち專門の學あり。專門の學有り、則ち世守の能あり。”
 [学んで、その道に精通できない者は、群書の構成を知らない。群書の構成が分からない者は、書に類別があることが分からない。その道それぞれに専門の書があり、専門の学問が育つ。その専門の学問から、世世引きつがれ崇められる専門の技芸が育つのである。] 
事実も確かにその通りだ。一つの学問を専攻し、またある一つのテーマ―を専門的に研究しようとすれば、その分野に関連するあらゆる資料をしらみつぶしに読まなければならない。そのためには、図書資料の分類を知る必要がある。この知識なくして、やみくもに探しまわっても、成果が上がらない。鄭樵が『通志』のような大著を完成させることが出来たのは、日常の弛まぬ努力の積み重ねと、「搜奇访古」(天下の奇書や古書を訪ね歩き)を行い、収蔵家のお宝に出会うと、それを借りては読み、書き写し、貴重な資料が山をなす研究を進めた結果である。彼がとった方法は価値ある研究方法で、大いに学ばなくてはならない。

ルーズリーフ式ノート

 今日なにを研究するにしても、古今東西の関連する書籍、出版済の印刷物の全てに眼を通し、有用な資料は書き写し、理論と実践により裏付け検証し、更に詳細な分析と研究を重ねて、始めて過去の諸先輩の実績の上に、自己の新しい見解を発表出来るのだ。こうするためには、苦労を重ね、系統立てて資料を研究しなければならぬことは言を待たない。
 資料を集める具体的方法について、ご自慢の科学的最新の方法を説く人もいるが、私はあまり高く評価しない。私の方法は、恥しくて人に言えないような、簡単な古い方法でやっている。若し貴方が何かについて研究を始めるというのであれば、私は今すぐにルーズリーフ式ノートを一冊身辺に置くことをお提案したい。材料が見つかったなら、すぐさまルーズリーフに記載し、それに小題を付すことだ。それが或る程度まとまれば、整理し、そこから研究項目を絞りこみ、資料の小題を順序に配列し、分析を始める。どの部分の資料が不足し弱点かを見極めてから、また資料集めを開始するのだ。
 ノートに記録する材料は、思いついたアイデアのメモ、実地調査結果や談話の一部、新聞雑誌の記事を全文或いは摘録を書き写すのもよし、関係書籍名や論文目録、人物紹介、その他なんでも糸口を記載する。つまり、関連するあらゆる資料をルーズリーフに書き込むのだ。ルーズリーフは、差し替えが頻繁に行えるのが良く、差し替えを経てますます一貫性が増し、記録資料が生きてくるのだ。また整理をやり直すにしても、極めて手軽で、いつでもアップ・ツウ・デートを維持することができて、便利な事この上ない。
 大部数の全集や珍奇本を利用する時も手間が掛からない。もし、目的の書を持っていなければ、図書館に行き目録をくれば、どの本が必要かすぐに判る。図書館では図書不案内者のために館員がいて、利用者に、必要な本を探す手伝いをしてくれる。これは大変手助けとなり有難い。しかし、閲覧方法を習得して、『冊府元亀』、『太平御覧』、『四庫全書総目提要』、『図書集成』、『淵鍳類涵』等の目録書籍を活用することができると、専門研究項目を探す時に、文件検索の手掛かりとなる。これで調べてから必要な図書を閲覧する、この利用法に慣れるとべんりである。このようにして資料を反復調査すれば、研究の糸口はかならず見つかるはずだ。
 課題の研究を進め、資料を累積する過程において、皆さん自身にも系統立った研究資料体系が整い、研究業務の根底も自然と厚みがましてくるはずである。このように、全ては簡単な方法から始めるのである。取っ掛かりは、小さな鍵を使うこと。是非、試みていただきたい。

訳・北 基行

【 掲載当時の時代考証と秘められたメッセージ 】

「一把小钥匙」ひとそえ

 今回、鄧拓氏は情報整理や論文作成の基本的な手法を屈折の少ない文体で次世代に伝授しています。1960年代初めのことです。
 当時の情報処理の「科学経験」とありますが、ITの先駆けがあったとしても、昨今のような高度に進化中の技術とは次元が異なることでしょう。肉筆のルーズリーフ(活頁的本子)を活用し、図書館を訪ねて司書サービスを利用するというオーソドックスな内容です。
図書館で足りないと、資料の宝庫であった档案館に外国人でも出入りができて、調査が可能だった時代は過去のことになりました。
 冒頭の「我先要給這些朋友打気、請他們不要灰心,不要害怕没有辨法」の中の「打気」について「ひとそえ」します。「打」の基本義(打つ・叩く)を失い、いろいろな動詞に代わる用法は、打毛線(編み物をする)、打襟帯(ネクタイを結ぶ)、打車(タクシーを拾う)など多くあります。「打気」はタイヤに空気を入れる→元気付ける、気合を入れる意味になります。若者に対して、ここでは「打気」を巧く使って、「灰心」(気落ち)させない、という表現から作者の意図を感じます。心が揺れる若者に対し「活(喝)を入れる」時にも「打気」を使うことがあるようです。

文・井上邦久

一把小钥匙 原文

 近来接到一些朋友的来信。有的说:在做研究工作的时候,因为材料太多,头绪很乱,不知从何下手?有的说:常常遇到许多问题,要想找有关的参考材料,总是找不着,这怎么办?他们都表示要努力从事专门的研究,但是又都觉得自己的根底太浅,恐怕不能胜任专门研究的任务。

 我先要给这些朋友打气,请他们不要灰心,不要害怕没有办法。无论材料太多太乱,或者根本找不到材料,我想只要先用一把小小的钥匙,打开一个系统化的科学研究资料的门户,就可以逐步解决问题了。

 那末,这一把小钥匙在什么地方呢?如何才能取得这一把小钥匙呢?我的回答是:这一把小钥匙就在朋友们自己手边,不过要下一番苦功夫才能把它拿出来使用。

 大家都熟识的著名的宋代历史学家郑樵,在《校雠略》中说过:“学之不专者,为书之不明也;书之不明者,为类例之不分也。有专门之书,则有专门之学;有专门之学,则有世守之能。”事实也的确是这样。要想专攻一门学问,或者专门研究一个问题,就必须读尽这一门学问或这一个问题有关的一切图书资料。而要达到这个目的,又必须知道这许多图书资料所属的门类。否则到处瞎碰,什么也学不成。郑樵自己所以能够写成象《通志》那样的大书,就因为他生平勤学苦读,到处“搜奇访古”,遇见人家收藏有图书的,就要借读,抄录了大批重要的材料,进行研究。他的经验是非常可贵的,我们应该好好学习。

 今天我们无论研究什么问题,一定要把古今中外一切有关的书籍和报刊上已有的材料,统统看过,摘录每一点有用的东西,通过理论与实际的相互结合和印证,并且进行了详细的分析研究之后,才能在前人已有成绩的基础上,进一步提出自己的见解,这当然非下一番苦功夫,进行系统的资料积累不可了。

 在积累资料的具体方法上,有的人也许要讲一大套自以为很得意的科学经验,但是,我却卑之无甚高论,老实说些很简单也很粗笨的办法。假如你现在要着手研究某一个专题,我劝你马上准备一个活页的本子在身边。发现有一条材料就记在活页本子上,每条最好加一个小题,积了很多条之后就作一次整理,弄出一个研究纲目,把已有的材料按照小题分出先后次序,再加以细心的分析,看什么地方有缺漏,再继续去搜集材料。

 记到本子上的材料,可以是自己随时想到的意见,可以是实地调查访问的结果或一段谈话,也可以是报刊和书籍上一段记载的全文或摘录,有时还可以是有关的书刊和论文的目录、人物简介及其他线索,总之一切有用的都可以记上活页本子。它既是活页,就愈活愈好,活而不乱,记而不死,随时可以打散重新加以整理,非常方便,毫不死板。

 即便要用到大部头的或者珍贵版本的书籍的时候,也不太费事。你自己如果没有书,可以到图书馆去翻一翻目录,看看那些对你有用的书。有些好的图书馆员,常常能够积极帮助不熟悉图书的读者,查找他所需要的参考书。这对你将是很大的方便。但是你自己也要学会查阅《册府元龟》、《太平御览》、《四库全书总目提要》、《图书集成》、《渊鉴类涵》等等工具书,寻找与你的专题研究有关的条目,也许会得到必要的文献线索,然后你再去借阅那些文献。这样反复查找,许多有关的线索就都不难被发现。

 经过一个又一个的专题研究和资料积累的过程,你自己就可以逐渐形成某种系统化的科学研究资料的体系,研究工作的根底就自然而然地会深厚起来。但是,这一切都可以从一个简单的方法下手,先用一把小小的钥匙。如果你愿意,无妨试一试吧。

木下 国夫・藤井義則 校正

燕山夜話 第2集28話(通算58話)「一把小钥匙