2025年1月例会 第174回セミナー
■ 戦中戦後に中国でご苦労をされ、現在はご高齢ながら日中の懸け橋として現役で飛び回っておられる方が今回の講師……きっと眼光鋭い武人の様な方だろうと想像していた私の前に登場なさったのは、柔和で微笑みを絶やさない素敵な方だった。
旧満州で終戦を迎えられたと聞くだけで、歴史の知識がある者は様々な苦難を思い浮かべる。講師の新宅久夫先生も、一般人に危険を知らせる事無く突如姿を消した旧日本軍や進駐してきたソ連軍など、私が歴史資料で知ったあれこれを実体験として話して下さり、(やはり真実だったのだ)と改めて痛感させて下さった。しかもその後、御父様は「留用者」として中国共産党の指示の下、中国にとどまられて働かれ、ご一家は国共内戦も経験される事となる。
突然の私事で恐縮ながら、私には、学齢期の子と共に夫の海外転勤に同行して、慣れぬ異国の田舎の村で過ごした経験がある。そのせいで、新宅先生の御母様のご苦労が偲ばれてならなかった。万事祖国とは違う環境下で、食べさせて着せて健康・安全・教育に配慮するのは、平和な時代でも苦労が伴う。ましてや戦中戦後の満州である。現地の人々の対日感情が良い筈が無い。しかし現地の人の助け無しに外国生活を全うするのは、平時でさえ難しいのだ。なのに、まだ幼いお子達を守り切った御母様は、おそらく戦中から現地のご近所さんとも上手く付き合っておられて、憎まれない実績を積んでおかれたのではないかと想像する。
新宅先生のお話の中に、その事を裏付けるかもしれないエピソードがあった。「新聞も無かったのに中国の人は情報が速くてね」と。その情報を聞かせてもらえた、つまり噂話の輪の中に入れてもらえていた新宅家……また「国共内戦時に米軍が国民党の為に飛行機で投下した支援物資が共産党エリアに落ちる事があって」と楽しそうに語っておられたが、それを拾いに行く人々の輪の中に新宅家の皆さんも加わっておられたと想像するにつけても、御母様のご近所付き合いの成果を思わずにはいられないのである。
勿論、新宅先生が言っておられた「留用者は新中国建設の為に尽力してくれている」との新政府からの正式コメントが、彼らを守った事も大きいと思う。ご存知の様に満州国は中国人民の心身を蝕む阿片で富を得、731部隊が非道の限りを尽くした。日本人全員を許さないと思われても仕方がない当時の状況下で、恨みより実を取った新政府の判断には敬意と感謝の念を抱かざるを得ない。
この様にマクロ的には政府コメントの力とはいえ、繰り返しになるが、ミクロ的には個人の努力も重要だったと思う。もしもご近所さんに嫌われていたら、どんな嫌がらせを受けたか分からないのだから。
そんな御母様の社交性、恐らく快活でいらしたと思われる性格が、現在の新宅先生の柔和な笑顔をも形作られたのではないかと思う。聴衆のお一人から「ご苦労話を」とお声が上がっても、「氷点下40度になると濡れた手ぬぐいが凍ってチャンバラごっこが出来てね」とニコニコされるばかりの新宅先生。私の脳裏には、極寒の雪原で「あら面白いわね」と率先して手ぬぐいを振り回して笑っておられる御母様の、楽し気なお姿が浮かんだ。
妻で母である私なので、つい先生の御母様の事ばかりを思ってしまったが、最後に御父様達「留用者」の皆さんに思いを馳せたい。私は、あの戦争には、日本側には一片の大義も無かったと思っているが、その戦後処理に尽力して、中国の復興に役立たれた日本人がおられた事を知って、どれほど安堵したか知れない。日本側の償いとしてご苦労いただいた皆さんに深く感謝し、非力ながら、次世代に伝える試みをしようと思う。その試みが同時に、新宅先生と、当講演会を共にして下さった皆さんへのお礼ともなれば、望外の喜びである。S.T.
■ 先日の講演会ですが、興味深く拝聴させていただきました。当時の生の体験談が伺えるのはたいへん貴重なことで、久しぶりに参加させていただきました。失礼ながらもう相当のおじいさまが思い出話をとつとつと話されるようなイメージでおりましたが、新宅さんは背筋がすっと伸びて矍鑠とされたご様子で、何よりも抑制のきいたお話ぶりで内容がよく整理されており、まずそれにびっくりいたしました。
山のようにさまざまな体験をされたことだと推測しますが、公の場で語れることには制限がありますから、当日のオーディエンスの様子を見つつうまく伝えてくださったと思います。私もいくつか思いがけなかったお話の内容があり、参加してよかったと思います。H.M.
■ すぐにメールを差し上げたいと思いながら、こちらは雑事に追われて、時間ばかりが過ぎてしまいました。申し訳ありません。先日の THINK ASIA SEMINAR (華人研)は、大変楽しかったです。参加されている方々も勉強熱心で、お互いを高めあえる素晴らしいコミュニティだと感じました。おかげで、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。思いきって初参加させていただいてよかったです。本当にありがとうございます。
多くの方と出会い、その出会いが新しい学びや気づきをもたらしてくれます。2月のセミナーにも申し込みをさせていただきました。今後もできる限り毎月、参加させていただきたく思います。T.K.